清泉亀の翁純米大吟醸は精米歩合40%の酒米、亀の尾を使用した『清泉』シリーズの最高峰に位置し、フルーティーで穏やかな吟醸香と酸味の絶妙なバランスが楽しめる、永年、酒徒垂涎の的となっているお酒です。
醸造元の久須美酒造の名を一躍世に広めたのは、幻の酒米「亀の尾」の復活劇。
この米は明治時代半ば、庄内地方の篤農家・阿部亀治が発見、育成し、「不世出の名品種」として戦前は作付面積を誇ったが、病害虫に弱く、倒伏しやすいなどから徐々に姿を消していった。
そんな折、久須美酒造の六代目・久須美記廸氏は、名杜氏と謳われた河合清杜氏から、「私は今なお、亀の尾に勝る吟醸酒を見たことがない」と亀の尾を絶賛した話を聞く。
「その米でぜひ酒を造りたい!」との想いに駆られ、六代目の「亀の尾」の種籾(たねもみ)探しが始まった。
1980年、苦労の末に手にしたのは僅か10本の穂、約1500粒の種籾だった。
この貴重な種籾を元に、生産農家でもある蔵人と二人三脚で3年がかりで復活させ、1983年冬「亀の尾」を使った純米大吟醸『亀の翁』は誕生した。
夢にまで見た幻の酒米は蘇り、香り高い酒となり、この酒はその年の三大鑑評会で金賞を受賞した。
やがて「夏子の酒」の題材となり、多くの日本酒ファンに感動を与えた。
さらには日本酒の造り手を生み、飲み手を増やすなど、日本酒業界に残した功績は誰もが認めるところである。
久須美酒造では昔ながらの手法にこだわった酒造りを行っている。
食品の安全性を第一にするから、コストはかかるが普通酒まで含めて全量自家精米。
原料処理には甑(こしき)や麹蓋(こうじぶた)を使い、酒母は汲み掛け法を繰り返して立てている。職人技を大事にするのは、酒造りの技だけでなく、環境も含めて文化を正確に伝えていくためだという。
「日本酒は古来の知恵や大自然の恩恵でできたことを伝えていきたい。微生物が働きやすい環境を作ると言うが、じつは日本酒の酵母菌は餌がありすぎるといい働きをしない。
いかに過酷な場所を作ってやるかが大事。命のせめぎあいからいい酒ができるんです」
久須美蔵元の透徹した眼は蔵の明日のみならず、業界の未来を見据えているようだ。
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